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【2024/11/23 02:05 】 |
なんだかよくわからないパロ その21

こんな状況ですが、更新します

対罪歌編はこれで終了です。このまま対黄布賊編に入るか、それとも小話をいくつかあげるかはわかりませんけど











徹底的に清潔さが保たれたベッドに横たわりながら、園原杏里は心配そうにこちらを見やる友人を気遣って唇の端に微笑を浮かべた。浅くはないが片手だけという事で生活に支障が出ない帝人とは違い、全身に切り傷を負った杏里は入院生活を余儀なくされた。どの傷も浅いのでしばらくしたら家に帰れるとは思うが、病院で大人しくしていたほうが、事情聴取に来る警察にとっては都合がいいのだろう。


「でもたいしたことがなくて本当によかったよ」


ベッド脇のパイプイスに腰掛けた帝人が言う。彼女の手には真新しい包帯が幾重にも巻かれている。


「迷惑じゃなかったら退院できるまで毎日来ていいかな? 学校のプリントも渡したいし。あ、ノートも写さないといけないね」


「ありがとうございます。竜ヶ峰さんも、手、大丈夫ですか?」


訊ねると、帝人は怪我したほうの手を挙げて、平気、と笑った。その隣で同じようにパイプイスに座っている紀田正臣が、うがー、と大声を上げる。園横顔を、帝人が迷惑そうな視線でじろりと睨む。


「畜生・・・・辻斬り野郎め! ごめんよー、俺が24時間ついてりゃこんな目には絶対あわせなかったのによ・・・」


「それってもはやストーカーだよね。警察呼ぼうか?」


軽口を交えながら叫ぶ正臣の頭をぺしりと軽く帝人がはたく。いつもとなにも変わらないその光景に、思わず杏里の唇から小さな笑い声が漏れた。それままぎれもなく、安堵の笑み。


その時、正臣の携帯電話が盛大に音を立てた。帝人がマナー違反、と小声で諌めると、彼は笑いながらちょっと出てくるわ、と立ち上がった。


「ついでに飲み物買ってくるけど、杏里はなにがいいー?」


「え、あ、じゃあ緑茶を・・・・・」


「りょーかい。で、帝人はミルクティーだよな」


「よくわかってるね」


まあな、とどこか誇らしげに胸を張って正臣は退室した。その背中が完全に見えなくなるのを確認して、杏里は口を開く。


「やっぱり仲が良いんですね、ふたりは」


「? あ、さっきのこと? ずっと昔から一緒にいると、これくらいは言わなくてもわかるようになっちゃうんだ」


照れくさそうに笑う帝人。このふたりは杏里には想像もつかないくらい長い年月を共有して、そこにある色々な感情も思惑も全て分け合って、そうしてここにいるのだろ思った。お互いがお互いの隣で呼吸をすることに、なんの疑問を持たないで。


「・・・・・・それなのに、紀田くんには、やっぱり言わないんですか・・・・・?」


帝人が抱えているものを全て、彼と共有すべきだとは言わない。けれどそうすることで何かが吹っ切れて、なにがか軽くなるのでは、ないだろうか。杏里がそうだったように、帝人もまた、少しだけ楽になるのではないだろうか。


杏里の問いに帝人は寂しそうに笑って、しっかりと首を横に振った。


「うん、言えない。言えないよ、こんなの」


寂しそうに、泣きそうに、笑う、彼女がかわいそうだと、強く思った。


「確かに正臣だったら受け入れてくれるかもしれない。なんてことないように笑って、いつもみたいに変わらないでいてくれるかもしれない。でも、だめなんだ。正臣がだめなんじゃなくて、ぼくが、だめなんだ」


伏せていた目をあげる、その瞳から一筋の涙がこぼれて頬を伝った。


「ぼくは万が一にでも、正臣に嫌われたくないんだ・・・・・・・」


瞬間、杏里は強く帝人の身体を抱きしめていた。杏里の胸元で嗚咽をあげる友人の身体がこんなにも小さかった事に今さら気付いた。こんなにも小さな肩で、こんなにも小さな腕で、彼女は抱えきれないくらいの痛みと、哀しみと、そしてあふれる『欲望』を抱きしめて生きているのだ。


触れ合った肌から少しでも彼女の悲しみが流れ込んでくればいいと思った。悲しみと痛みを、わけあえればいいと願った。あの晩、帝人が杏里を楽にしてくれたように、少しでも帝人が楽になればいいと考えた。傷の舐め間としても、痛みが薄れるのなら構わないと、強く、思った。















「畜生っ・・・・・」


病院内のトイレの中で少年は盛大に拳を壁に打ちつけた。公共物に八つ当たりをするその姿はあまり褒められたものではないが、人気のないトイレでは少年の行動を咎める人間はいない。少年は携帯を片手に握り締めたまま、畜生、と繰り返し拳を壁に打ち付けた。


「俺を引き戻さないでくれよ・・・・・」


聴いている者の胸を抉る、後悔の念にあふれた呟きが床に落ちた。


「くそっ・・・・・・杏里だけじゃなくて、帝人にまで手を出しやがってっ!」


がん、と拳を打ち付ける。ぴき、と壁から嫌な音がしたが、少年が気にする様子はない。そんな些細なことは、彼にとってどうでもいいのだ。


「畜生、俺を引き戻すなっ!」


ぼんやりと発光する携帯のディスプレイ、そこに表示されている受信メールの内容を眺めながら黄布賊の『将軍』は――――紀田正臣は、獣の咆哮のように、啼いた。





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【2011/03/16 10:49 】 | 未選択 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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