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【2024/11/23 02:21 】 |
もし断頭台の蜜の味を覚えてしまったら

どうもお久しぶりです


久しぶりの裏更新は、本当にわけがわかりません。読んでくださる方は以下の諸注意をよく読んで頭に浸透させ、それでもOKという方だけ続きからご覧ください


●帝人♀と戦争コンビの間に子供がいる

●その子供メイン

●帝人似な姉、戦争コンビ似な双子の弟

●お姉ちゃんは「みーちゃん」、双子はそれぞれ「しーくん」「いっくん」(適当です)

●近親相姦的な表現入ります




題名は歌舞伎さまよりお借りしました








私には弟が二人いるが、上に兄姉はいないし妹もいない。私には父が二人いるが、母はひとりしかいない。母ひとり父ふたり子さんにんの家族構成が普通ではないことなどとうの昔に気づいていたが、私がそれを疑問に思ったことや嫌悪を感じたことは一度もなかった。母は確実に私の母であるし、ふたりの父も自分の子ではないかもしれない私に良くしてくれた。ふたりの弟は色々と問題点があるものの、私に友好的で彼らに困らされたことはあっても悩まされたことはない。普通ではなかったが、それでも私の家族はきちんと【家族】だ。
 

半開きになったカーテンの隙間からちらちらと朝日が覗くことに気がついて、ようやく私は自室の壁かけ時計を見た。最後に確信した時は3の文字を指していたはずの長針は8の文字を指している。うぅん、と私がイスに座ったまま背伸びをすると、身体のあちこちから骨が軋む音がした。
 

今まで全く気にならなかったけれど、意識して見れば腹は鳴るし瞼は重い。若いからって徹夜でネサフに耽るものじゃないなあとしみじみ感じながら、私はとりあえず食欲を満たすべくリビンクへ向かった。案の定、進学を機に春から転がりこんできた弟のひとりが、こんがり焼けたトーストにとろとろの半熟目玉焼きとカリカリのベーコンを乗せて口に運んでいる。開口一番よこせ、と叫びかけたがさすがにそれは人としてどうかと思うので無理矢理唇を閉じる。
 

「おはよう、しーくん」
 

弟は適当に朝のニュースを流しているテレビから視線を外して私をみると、小さく「ん」と唸った。むしゃむしゃとトーストを齧る弟をガン見していると、彼は渋々と言った風な顔をしてもう一枚同じトーストが乗った皿を向かいの席に寄せた。
 

「ありがと、しーくん」
 

ひゃっほう、と歓声を上げたくなるのをこらえて、私は席に着いた。父に似て料理を得意とない彼の唯一の得意料理が、空から降ってきた少女と旅に出て飛行士の父親の悲願を達成するアニメ映画から学んだこのトーストだ。アニメ映画と侮ることなかれ、これがどうしてか、なかなかに美味しい。
 

トーストを齧りながら、私は視線だけでもうひとりの弟を探した。昨夜夕飯はいらないと連絡を寄越した彼は、私が入浴を終え自室にこもり始めてもまだ家に帰ってこなかった。朝帰りどころが昼帰り、長期休暇の際には無断で何日も帰ってこない時もあったから、こんなことは珍しくないとはいえ、心配じゃないと言えばそれは嘘になる。
 

「しーくん、いっくんは?」
 

「知らねえ」
 

たぶんそう言うとは思っていたけれど、弟は素早く切り捨てた。弟ふたりは双子だというのに、全く顔が似ていないうえにお互いがお互いをいつか殺してしまうじゃないかと思うくらい仲が悪い。ふたりの父に似たのか、それとも影響されたのか。まあそんなことはどうでもいいことだけれど、とにかく彼はもうひとりの弟絡みの事には協力してくれない。
 

まあ彼のことだから適当な時間に帰ってくるだろうと、私はもうひとりの弟を放置することにした。探すにしたって徹夜明けの私にそんな体力も気力もないし、ついでに言えば心当たりもない。この広い都会の中で、手がかりなしに人を探そうだなんてどだい無茶な話だ。
 

「ごちそうさま。しーくん、私寝るから起こさないでね。お昼は、11時までに起きてこなかったら作らなくていいよ」
 

もうひとりの弟の話をすると、決まって向かい側の席に座る彼の眉に皺が生まれる。それが幼稚ながらも嫉妬という感情であることを知っている私は、黙って話題を変える。幼稚とはいえ、男女の間に派生する感情に碌なものはないと相場が決まっている。
 

自室へ戻るついでに、弟の茶色い髪をくしゃくしゃと掻き乱す。怒ったように私の手を振り払った彼が実は全く怒っていないことなど、その赤らんだ頬を見れば一目瞭然だ。そうでなくとも手元のコーヒーカップが無事なことや私が片手で捻りつぶされていないことが、彼の怒りが見せかけの物であることの何よりの証拠なのだから。
 
 
 





 
 
母がふたりの父を愛していないことに気がついたのは何歳の頃だったか、私ははっきり覚えていない。好いてはいたのだろけれど、母の中でそれは恋愛にまで発展しなかったのだ。そもそも母が恋愛感情の類を持てる人なのか、私は今でも疑問に思っている。
 

『結局、ぼくは逃げ切れなかったのかもね』
 

いつだったか母はぽつりと私にそう零した。ふたり弟の前ではずっと母親でいたあの人が、私の前では時折女の顔をのぞかせた。母が私を見る瞳の奥に、私は若い頃の母を見た。ふたりの父に生き写しの弟たちとは反対に、私は母に生き写しと言われている。だからだろうか、母が私に昔の自分を重ねているのは。ふたりの父に迫られた挙句どちらも選べず、結局ふたりの子を孕むことになった自分を。
 

確かに、私は母に似ていると自覚している。顔だけでなく、きっと性格も。
 

『一人暮らし? いや、反対はしてないよ。さすがはあの子の子供だなあと思っただけ。ほんと、神さまって奴を刺殺したくなるくらい、君は彼女にそっくりだ』
 

高校へ進学すると同時にひとり暮らしがしたいと、そう望んだ私に父のひとりは笑った。彼はひとしきり笑って、まだ中学を卒業したばかりである私に立派なマンションをひとつ、買い与えてくれた。その金銭感覚にはついていけないが、衣食住のうちのひとつを素晴らしい形で提供してくれたことには今でも感謝している。胡散臭い職業だがそれでも同年代男性の平均所得よりもゼロがふたつ多い額を稼いでくる父は、金銭的な面で私と弟たちを支えてくれている。
 

母の私生児として竜ヶ峰姓しか名乗ることを許されなかった私と弟たちを、ふたりの父はそれぞれの方法で支えてくれた。同居はせず、足繁く通うだけの父たちだったが、それでもまぎれもなく私と弟たちの父であったのだ。母にとって、父たちが夫であったかどうかはわからないが。
 

愛を知らず、恋に気付かず、ただひたすら逃げ惑うしかなく、それなのにこうして私と弟たちを孕んでしまった母。
 

母の選択の末が私と弟たちだというのなら、はたして母は、間違っていたのだろうか。
 
 
 
 





 
「ん・・・・・・・」
 

寝苦しさを覚えて、私は重い瞼をゆっくりと上げた。倦怠感は多少残っているものの、朝食の時よりか頭はすっきりしている。目を開けたそこには、音信不通の弟が私に抱きつく形で寝そべっていた。
 

「いっくん、帰ってたんだ」
 

「ただいま、みーちゃん」
 

にこ、と至近距離で弟が笑う。ふたりの弟はどちらも美形だが、特に彼の顔は別格だ。父親譲りの黒髪と紅い目。細いながらもしっかりと筋肉のついた身体に、女性よりもはるかに整った顔。これで私と血が繋がっているのだというのだから、ほんと、神さまとやらを刺殺したくなってくる。
 

彼は私の首に腕をまわして、ごろごろと甘える猫のように喉を鳴らす。このまま流されてしまえばきっとこの触れ合いは、小鳥同士の啄みのような口づけにまで発展するのだろう。それを止めるためというわけではないけれど、私は私の首筋に顔をうずめる弟の頬を両手で挟んで持ちあげると、質問の為に口を開いた。
 

「どこ行ってたの?」
 

「ちょっと野暮用。ごめんね、連絡しないで。心配してくれた?」
 
「したよ。しーくん程じゃないけど、いっくんもたまに無茶するし」
 

心配した、ではなくしてくれた、と尋ねる辺りが、彼らしいと思う。もしも彼に危害を加えた誰かがいたとして、私はその誰かをありとあらゆる手段を使って社会的にも肉体的にも精神的にも追い詰めるくらいは、この弟のことが大切だからだ。それはもうひとりの弟にも適用されるけれど。
 

野暮用だと弟は言った。けれど私はぼんやりと、彼は父の所へ行ったのだろうと思った。弟そっくりな美貌を持つ、おそらくは弟と血のつながりがあるのだろう父。DNA検査をすれば私と弟たちの父親がどちらなのかわかるだろうが、母と父たちの意向でDNA検査は行われていない。私はともかく、弟ふたりは顔を見ればどちらが父親かなんて一目瞭然だ。双子なのになぜ父親が異なるのか――――――母とふたりの父の夜の営みについてだなんて考えたくもないのだけれど、つまりはそういうことなのだろう。
 
 
なぜ父の所へ行ったのか、私は尋ねない。そこまで弟を束縛するつもりはなかったし、彼にも色々事情というものがあることは承知している。そんな私の考えを読んだのか、弟は唇の端に淡い微笑を浮かべた。
 

「大好きだよ、みーちゃん」
 

「・・・・・・・私も。好きだよ、いっくん」
 

彼が昔から幾度となく繰り返すこの言葉が、親愛ではなく肉欲を伴った愛情であると、私は知っている。対する私の返答が、何を伴っているのか、私にはわからない。
 

このままいけば、私は母と同じように弟たちの子供を産むことになるのだろうか。こちらに伸びてくる手を振り払えずに、かといって積極的に抱き寄せることもできず、ただ流されてしまうだけなのなら。
 

彼らを大切に思うこの感情に、誰かが名前をつけてくれたらいいのに。もしそれが恋ならば、私は抵抗なく姉弟という垣根を越えてみせよう。けれど私は母に似て、恋だの愛だのわからない。

 
母は恋愛がわからず、父のひとりは歪んだ愛情しか持てず、もうひとりの父は愛情から最も遠い場所にいる。そんな人たちの血が流れている私と弟たちは、まともに恋愛などできるのか、私ははなはだ疑問だ。
 

それでも決して、私はこの手を振り払いはしない。手を差し出さないかわりに、振り払わない。何があっても、絶対に。
 

私の家族は普通ではない。父はふたりいて、双子の弟たちは殺し合うほど互いを憎んでいる。母は恋を知らず、私は自分の父がわからない。両親たちはいまだ青い恋愛を繰り返していて、子供たちは近親相姦に片足を突っ込みかけている。でもそれが、私の【家族】なのだ。












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【2011/11/08 23:42 】 | 未選択 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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