嬉しいことにご要望があったので、オトコの娘な岸谷帝人くんパロです
静帝、というよりは静+帝。まだくっつく前だと思います。ていうか書いたはいいんですが、時間設定がぐちゃぐちゃになってしまいました。白バイクがセルティさんを追っかけ始めたのって、闇夫婦がいちゃいちゃしてからなんですよね・・・・・。あと静雄がセルティさんの名前を知ったのはいつ? 臨也はまだ一巻の前半では知らなかったみたいだし・・・・・シズちゃんは最初っから知ってたのかな?
なかなかにカオスですが、そこはご都合主義なのでスルーしてください
題名は
選択式御題 さんよりお借りしました
どこからどう見ても少女に見える。少女にしか見えない。幼さが残っている顔のせいで中学生にも見えるが、静雄は本人から今年で16になるのだと聞いていた。高校に通っているはずの歳だが、戸籍がなく、小学校も中学校も通っていないので諦めたらしい。肩の辺りまで伸ばされた髪は静雄が髪を染める以前のそれよりも深い黒で、まめに手入れをしているのかそれとも元々質が良かったのか、シャンプーのCMにでも出演できそうなくらい艶やかだ。誰の趣味なのか、着ているのは首の後ろの大きなリボンとレースが目立つ、ゆったりとしたアイボリーのチェニックと黒いレギンス。腰よりやや下の辺りについているリボンが気になるのか、時折真剣な表情で向きを直している姿は、複雑な生い立ちがあるというのに歳相応の少女に見える。誰が気付けるだろうか、静雄がじっと見つめていることに気付いてにっこり微笑んだこの少女が、
少年だ、なんて。
岸谷帝人。静雄の級友の義弟にあたる彼の生い立ちは少々特殊だ。静雄が尋ねた時、彼はあっけらんと笑った。話の内容とは180度正反対の明るい笑顔で一言、『ぼく、捨てられてたんですよ』と話した。
『橋の下に産まれたばかりのぼくが捨てられてたんですって。セルティさんが仕事帰りに拾ってくれたんです』
トラウマにもなりえる過去を明るく話せるのは、その事実を心の傷として認識できるほど帝人が成長していなかったからだと言った。まだ歩くことさえままならない幼子は、捨てられたという事実を理解することができなかったのだ。それが幸いなのか不幸なのか、静雄はもちろん帝人にだってきっと、わからない。
そして最大の疑問。なぜ彼が女装をしているのか。ちなみに今だけではない。デニムスパッツやジーンズなども着るが、基本彼が着るのは女性用の服だ。たまに調子に乗った狩沢に頼まれてコスプレもする。男としてそれでいいのかと静雄は思うのだが、新羅の陰謀で幼い頃から女装をしてきた帝人が何の疑問を抱いていないことと、なによりそこら辺の女の子よりもよっぽど可愛らしいことが、静雄から突っ込む気力を奪っていく。基本的に静雄は他人の趣味に口を出すつもりはないので、似合っているし本人が好きならそれでいいかと思う。
ファミレスの席に腰掛けて、イチゴのタルトを嬉しそうに目を細めて頬張っていた帝人は、どうしたらいいでしょうか、と静雄に問うた。この相談ももう何度目になるかわからない。義弟の身を案じた新羅によってその存在をひた隠しにされ続けていたため、静雄が帝人と知り合ってまだ間もない。悩みを打ち明けられるほど信頼関係を築けてはいないと静雄は思うのだが、新羅に子守歌代わりお伽話代わりに静雄の武勇伝を聞かされて育った帝人は、静雄が軽く引くくらい静雄に心酔している。憧憬に満ちたキラキラの瞳で見上げられるのは、嫌ではないが苦手だ。そんな視線はテレビの中のヒーローにでも向けていればいい。静雄はヒーローではない。
「つかお前、まだ諦めてなかったのか」
「当たり前です。ぼくは絶対、セルティさんに義兄さんと結婚してもらうって決めたんですから」
ぐっと拳を握りしめて帝人が意気込む。愛情という毛布で幾重にも包まれて何不自由なく育てられた彼の、唯一の悩みがそれであった。いかにして義兄とその義兄が心から愛するデュラハンをくっつけるかなんて、あまりにも拍子抜けしてしまうような、悩み。
一生懸命な帝人には申し訳ないのだが、静雄は思う。相談する相手を間違っている、と。首のある女性に興味はないと豪語する友人と一緒にいたために女性のじの字も見えない青春時代を送り、成人したらしたで池袋の喧嘩人形とまで言われる静雄に近づく女性などいない。畑違いもいいところである。おまけにくっつけようと策を練る相手が新羅とセルティ。くどいようだが再び言おう。否、言い変えよう。人間と妖精をくっつけようと、彼は言っているのだ。人間同士をくっつけるのでさえ大変なのに、種族の違いが存在するふたりをどうにかするなど、静雄には荷が重すぎる。
「あのふたりの仲を応援するのは別に構わねえんだけど」
静雄もあの新羅の面倒を見切れるのは彼が愛する首なしライダーだけだと思うので、彼らがくっつくことにはなんの異論もない。だがしかし、それとは別に、静雄には帝人の行為を応援できない理由がある。
「本人たちを無視してくっつけようとするのは、お前の我がままじゃないのか、帝人」
首を探したいというセルティの意思を無視して、
そんなセルティのそばにいたいという新羅を蹴り飛ばして、
本人たちの意思を無視するのなら、それは帝人のエゴだ。本人たちのためではない。帝人がそうしたいから、そうなってほしいと思っているからだ。そんな自分勝手な計画に、静雄は参加できない。
「お前はどうしたいんだよ。根本的に、どうなればいいと思ってんだよ」
静雄の厳しい声に、帝人は眉尻を下げてだって、と繰り返した。まるで自分が少女を苛めているような状況に、少しだけ内心で焦る。もしこの場に新羅とセルティが居合わせたら、メスと黒い鎌が飛んでくる。
「・・・・・・・義兄さんとセルティさんに、幸せになってほしいんです」
そう言って、帝人は泣きそうな顔をしたけれど泣かなかった。悲しいのではない。辛いのではない。きっと、苦しいのだ。
「ぼくは赤ん坊のころに産みの親に捨てられました。ねえ静雄さん、赤ん坊を生きたまま捨てる意味が、わかりますか?」
わからないので静雄は黙っていた。帝人は笑って、そんなふうに笑うならいっそ人目を気にせず咽び泣いてくれたほうがましだと思うような笑い方で笑って、静かな声で続きを言った。
「いらなくなったとか育てられなくなったなら、孤児院とか市役所の前に捨てればいいんです。役所がどうにかしてくれますからね。殺して捨てるのも、赤ん坊なら比較的簡単です。すぐ死にますから、赤ん坊って。人殺しになりたくないのならやっぱり、どこか公共施設の前に捨てればいいんです。殺しもしないで人気のない場所に捨てるっていうのは」
ホームレスくらいしか用のない、暗い橋の下だったという。春になりたてで日中は暖かくとも、まだ冬の残滓が残る肌寒い夜だったという。そんな場所に、産まれてまもない帝人は置き去りにされていたのだと、いう。
「生きていても死んでいても、どちらでも構わないって思われているってことなんですよ」
それは殺したいと思われるほど憎まれるよりも辛いことなのだと帝人は言った。静雄にはわからない。異常な身体をしていたけれど家族に見放されることのなかった静雄には、無関心でいられるより憎んで欲しかったと願う帝人の気持ちなど、これっぽっちもわからない。
ただ無性に、同情でもなんでもなく、この子供がかわいそうだと思った。
「ぼくはきっとセルティさんが拾ってくれなかったら死んでいました。だからセルティさんはぼくの命の恩人です。だけどきっと、拾ったのがセルティさんだけだったらやっぱり、ぼくは死んでいたんです」
それはそうだろう。記憶を持たないデュラハンが人間の赤ん坊を育てようだなんて、無理な話だ。それでも帝人がここまで問題なく育ったのは、帝人を養子にした岸谷親子のサポートがあったからだ。そしてきっと、岸谷親子だけだったら、帝人は誰に気づかれるでもなく橋の下でその短い生涯を終えていただろう。セルティと岸谷親子、そのどちらが欠けていたら帝人は今日まで生きてこられなかった。
その偶然を、どこかの誰かは奇跡なんて呼ぶのだろうけれど。
「セルティさんも義兄さんも、それから義父さんもぼくの命の恩人です。ぼくの大切な人たちです。幸せになってもらいたい人たちです。だから義兄さんとセルティさんが結婚すれば、まとめてふたりとも幸せかなって思ったんです」
言葉を選ぶかのように慎重に胸の内を吐き出す帝人は、先ほどの泣きそうな顔とは打って変わっていくぶんかスッキリした晴れやかな表情をしている。静雄はこの不器用で一生懸命な年下の子供を小さく笑いながら眺めた。彼は間違っていたけれど、決して愚かだったわけではない。ただほんの少し、不器用だっただけ。
「そんなに急ぐ必要はないだろ。だいたいあの新羅が高校の時から口説いてるんだ、今更俺たちがなんかしたって変わんねえよ」
「そうなんですけど、もしセルティさんと義兄さんの仲がこれ以上進展しないまま、セルティさんの首が見つかったら」
そこで一旦言葉を切って、帝人は少しだけ不安そうな顔をした。そしてためらいがちに、まるで想像するのも恐ろしいのだと言うように、口を開く。
「セルティさん、ぼくと義兄さんを置いてどっかに行っちゃうのかな・・・・・・・」
吐き出された独白を、静雄は唖然とした思いで咀嚼する。今この子供はなんて言ったのだろうか。ありえないことを言われて、笑う前に呆然としてしまう。
セルティ以外の何かに興味を示さない新羅が、厄介事に巻き込みたくないからと言って16年間も静雄と臨也から隠し続けた義弟を。首なしライダーが出かける際には夕方五時には帰って来いと言い含め、それを一分でも過ぎたら白バイクに追われることさえ顧みず探しに出かけていく最愛の子供を置いていく、なんて。
口が裂けても言えないし天地がひっくり返っても考えられないし太陽が西から昇ることよりも在りえないのだと、当の本人が自覚していない、その事実に静雄は唖然とした。
「―――――馬鹿だろ、お前」
呆れた声でそう呟くと、帝人が心外だというふうに唇を尖らせた。確かに彼は小学校も中学校も卒業していないが、門田や新羅に教えを請うていて、中々の成績なのだと新羅がブラコンに相応しい勢いで話していた。だがそれでも馬鹿だと言わずには、いられない。
そもそも帝人や静雄がごちゃごちゃ考える前に、その件に関しては新羅が手を打っているのだろう。セルティのそばにいられるだけでよいと言う新羅が、その為にならどんな手段でも躊躇わずに用いると知っているので、静雄は何かしようとは思わない。帝人は義兄がそんな人間だとは知らないらしいので、そのことについては何も言わない。
びし、と静雄は窓の外を指さす。疑問符で顔を埋め尽くした帝人は指の先へと顔を向けて、そのまま目を見開いて固まった。静雄は冷めきったコーヒーを胃に流し込むと、呆ける帝人の手を引いて無理矢理会計を済ませると、そのまま店の外へ出た。
「まだ五時にはなっちゃいねえぞ」
『仕事帰りにたまたま見つけたから、何してるのか気になって。シューターもその気になれば無音で走れることを発見した』
がんばった愛馬? をひと撫ですると、セルティは駆けよってきた帝人を優しく抱きとめた。その抱擁はそのあたりを歩いている親子のそれと、なんら変わらない。
「お帰りなさい、セルティさん。お仕事お疲れ様です」
『ただいま帝人。また静雄に遊んでもらっていたのか。悪いな、たまの休日だっていうのに、帝人の相手をさせて』
申し訳なさそうなセルティに手を振ってどうってことないと示す。遊んで、というよりただ話を聞いてやっただけなのだが、まさかその話の内容を本人に言うわけにもいかないから、曖昧に言葉を濁す。
「帝人」
セルティに作り出してもらったフェイルスヘルメットをかぶってシューターにまたがった帝人のあたまを、軽くぽんぽんとはたく。首を傾げる帝人の耳当たりに顔を近づけて「がんばれよ」と囁けば、察したらしい帝人は勢いよく首を縦に振った。その様子を、何も分かっていないセルティがPDAに『???』と打ち込む。
『内緒話か?』
「そんなんじゃねえよ」
訝しむセルティを適当にごまかして、静雄は走り去るふたりの背中を見送った。ぎゅうと力いっぱいセルティにしがみつく帝人を見つめて、なんだか唐突に、実家の親に会いたくなった。
家族ってさ 多分こんな形をしてるんだろうね
(温かくて時々鬱陶しくて でもね優しい)
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